2017.09.23

お知らせ

朝日新聞に掲載されました。

 

今朝の朝日新聞 be フロントランナーに
デザイナー伏見愛佳が特集されております!

 

 

教会の回廊で少し離れて向き合う男女。

~ これは出会い? それとも・・・ ~

代表作の指輪 Una Storia Firenze【ある物語】にはこんな詞が添えられている。

物語を描くように身に着けてほしいとの願いを込めて立ち上げたジュエリーブランド「quarant’otto(クアラントット)」のデザインを担う。

4月に開業したGINZA SIX(ギンザシックス)の店舗にはガス灯やラテン語、蜂などをモチーフにした独創的なジュエリーが並ぶ。通りがかりの人が一人また一人、吸い込まれるように入っていく。

知名度もない。歴史も浅い。流行も追わない。にもかかわらず、開業月の坪あたりの売り上げは、全241店舗の中でトップクラス。周囲を驚かせた。

幼い頃から絵や物語を描くのが好きだった。両親の反対で美大は諦めたが、社会人になっても絵の学校に通った。そんな中、気まぐれで始めたジュエリー作りに引き込まれた。仕事を続けながら彫金を学んでいたが、30歳を前に伊フィレンツェに渡った。

2007年、神戸の路地に工房を兼ねた3坪の店を開く。なじみのない土地で人の通りもまばら。道に迷い込んだ人との出会いを重ねる日々だった。

3年経ったある日、大丸神戸店で働いていた辰畑明実さん(63)は、カフェのような外観にひかれ、ふと足を踏み入れてみた。「見たことのない世界観のジュエリーがずらり。宝物を探し当てたと思いました」と振り返る。すぐに出店が決まった。

その後は東京にも広がり、昨年、フィレンツェに店を構えた。偶然が運命を大きく変えた。 「物があふれている時代、人はその意味や付加価値を求める。クアラントットには、ぬくもりがある」。
経営や品質管理などを担う夫で宝石鑑定士の淵田大介さん(45)は言う。

肌に触れた時の感触や風合いを確かめるため、図面作りで終わらせず、立体的な原型まで作る。完成品は詞とタイトルを付ける。店内に飾られた絵画や内装も手がけ、自ら調達したアンティークの調度品も色を塗り替える。
全てにデザイナーの息がかかっている。

その人の内なる思いを引き出すことに重きを置くため、接客時間も長い。言葉の力を信じる人には羽根ペンのネックレスや本棚のリングを。一日一日の時間を大切にしたい人には数字や時計のモチーフを。
めぐる天体のように変わらない事象に安心感を持ちたい人には、星や月のモチーフを。経験や出来事とジュエリーがぴたりとはまったとき「ぱっと目を見開く」という。

生きていく道をジュエリーに投影し、物語を紡いでいく。

人生の主役は私。人生という名の物語を自由に描くため、そっと寄り添う。

 

週末は「GINZA SIX」の店頭に立つ。
伏見さん作の絵やヨーロッパの調度品が並びホテルのような雰囲気が漂う。大きな鏡の
前で=東京都中央区

 

— 順調に見えます。

去年までの3年間は精神的に追い詰められていました。
店舗が増えすぎたため、店に立ったり創作したりする時間が極端に減ってしまいました。
マーケティングに基づくものづくりではゼロから生み出せない。そう思って他のブランドは一切見ず、ジュエリーに意味を込めて作ってきたのに、価格帯やトレンドの話を聞くのは苦痛でした。
感性だけで作って周囲に迷惑がかかってしまうのならばデザイナーを降りようとさえ思いました。

— 乗り越えましたか。

思い切って店をいくつか整理することにしました。初心に戻って絵を描くことで絵画のようなジュエリーを作ることが私の最大の特徴なんだと確信しました。
世界は広いけれど皆同じ人間なのだから、心の中の大事なものは大差ないはず。無謀な夢だと思いましたが、本場フィレンツェに出店を決めました。徐々に自分を取り戻し、今はすごくいいバランスです。

~思いを共有して~

— 日本とイタリア両方の技法を用いています。

精巧さや職人の勤勉さは日本、デザインやセンスはイタリアが優れています。
日本は各工程に専用の道具がありますが、イタリアでは自転車のスポークやほうきの柄、干しイカなど身近な物も用います。
イタリアの職人はアバウトですが、火の音や手加減など経験値を重んじるので仕上がりはなんとも味わい深いです。
私が作った原型をもとに日本とイタリアの職人が分業で仕上げていきます。両方の良さをいかすこの方法を「Made with Italy」と呼んでいます。

— フィレンツェの伝統技法とは。

様々な彫刻刀を用いて透かし模様や絹のような光沢、微細なきらめきなど、金属に表情豊かな加工を施す技法です。
手彫りでしか表現できない独特の風合いが魅力です。

— 職人にお客様の思いを伝えるための工夫は。

 職人は工房にこもっていて外の世界を知らないので店のイベントに参加してもらったこともあります。
 それから、購入してくれたお客さまがどんな思いで選んでくれたのかを指示書に書き加え、仕事に取りかかる前に読んでもらっています。相手を想像することで思い入れが強くなるのか、ミスが減りました。

— どのような留学生活を送っていましたか。

時間もお金もなかったので工房を三つ掛け持ちし、彫金、石留、デザインを学びました。
空き時間も工房の机を借りて作り続け、腱鞘(けんしょう)炎になったほどです。
仕切りのない部屋を3人でシェアしていました。
安価なトマトとカリフラワーばかり食べていましたが、創作に専念できるのが何よりうれしかったです。

— なぜジュエリーを。

ずっと絵を描いてきましたが絵は自分の内面がえぐり出されて辛(つら)かったです。もっと優しいものが作りたいと思っていました。
毎日身につけられて永遠に残るところにも惹(ひ)かれました。
ジュエリーのアイデアは泉のように湧き出てくるので、苦しさを感じたことは一度もありません。

~自分で買うもの~

— 女性客が多いです。

出発点は自分が身につけたいものを作ることでした。
初めてのジュエリーは、社会人1年目に自分へのご褒美で買ったダイヤのピンキーリングで、そのときの喜びが原点です。
自分で意味を求めて買うものだと思っています。

— 創作するときに心がけていることは。

想像力をかき立てられるよう余白を大切にしています。パーツは用意してあるので、あとは自分で選んで物語を組み立てて欲しいと思っています。
伝統に頼りすぎないよう最新の技法も採り入れるようにしています。身につける人が少しでも幸せになってくれることが目的なので、独りよがりにならないよう気をつけています。

— 社員は家族のような存在だとお聞きしました。

創業時から支えてくれている社員、3姉妹で働いている社員もいます。
もともとお客さんだった人も多く、私のことをよく分かってくれています。
内装に既製品を使わないため、催事前の作業は夜通しになりますが、根気よくついてきてくれて感謝しています。

— フィレンツェに出店しました。

観光地から離れ、呼び鈴を鳴らさないと入れないような店なのに、思った以上に好調です。個性的なデザインから売れていくのも大きな自信になりました。
最近は日本の店で結婚指輪をオーダーし、新婚旅行先のフィレンツェで受け取る人も増えています。そういう物語の描き方があるんだなと感心しました。

先日、米紙ウォールストリートジャーナルでこの店と代表作が紹介されました。「最高のお土産を探すならベッキオ橋をスキップして」と。世界中の人に知ってもらう玄関口になったらいいなと思っています。